結成から20年もの長きに渡り、陰陽座が体現してきた“妖怪ヘヴィ・メタル”とは何なのか。彼らが主たるモチーフとする妖怪とは、市井の人々の多様な思いが生み出したものであり、換言すれば、陰陽座は人間そのものを歌う。音楽的にはJUDAS PRIESTを起源とするような正統派路線を軸にしつつ、アグレッシヴ／プログレッシヴなものからポップなものまで、ヴァリエーション豊かなヘヴィ・メタルというジャンルの世界を奔放に謳歌する。
　陰陽座の登場はエポックメイキングな出来事だった――2つのボックス・セット『廿魂大全』と『単盤大全』において、これまで発表されてきたスタジオ作品のすべてに耳を傾けたとき、改めてそんな思いを抱く。他に類のない個性的なスタイルに一切のブレがなく、着実に進化／深化を重ねてきた歴史。その歩みを黎明期から見てきた立場とはいえ、20年間があっという間に思えるのは、音源がリリースされるたびに必ず唸らされる、無尽蔵とも言えるポテンシャルを今も彼らに感じ取るからこそだろう。
　もともと自主制作でレコーディングされた初期の『鬼哭転生』（1999年）と『百鬼繚乱』（2000年）で示していた原点を軸に据えたまま、彼らはアルバムを重ねるごと多彩に押し広げてきた。しばしば「陰陽座に駄作なし」と言われるのは、その絶妙なセンスがあるゆえだ。現時点での最新作『覇道明王』（2018年）に至るまで、それぞれに思い入れは強いが、『鬼子母神』（2011年）で受けた衝撃は特に忘れられない。瞬火が原作脚本を書き下ろしたストーリー作品であり、コンセプト・アルバムの金字塔と断言してもいい内容だ。
　陰陽座の“作品性”の高さはシングルにおいても同様だ。たとえば、いまだロング・セラーを続ける「甲賀忍法帖」（2005年）は、もはや楽曲が独り歩きするほどの求心力を持っているが、山田風太郎の同名小説を幾度となく読み込んできたがゆえの的確な場面描写がなされている。「相剋／慟哭」にしても、『犬神家の一族』を知る人なら、歌詞の見事な表現に驚かされるはずである。普遍的なメッセージを介在させながら、美しき日本語を自在に操る高度なレトリックの数々も陰陽座の魅力だ。
　『廿魂大全』と『単盤大全』の聴きどころを挙げればキリがないが、陰陽座の入門編として手にすることを検討しているリスナーにとっては、言わずもがな、十二分のアイテムである。
　もちろん、最新のマスタリングが施されている点のみならず、1999年6月20日の初ライヴの時点で演奏されていた「鬼斬忍法帖」を始め、初期の代表的マテリアルである10曲をついにリレコーディングした前者の特典ディスク『黎明転生』、後者に特別収録される“20周年記念新録版”の「甲賀忍法帖」が、従来からのファンは気になるところだろう。セルフ・カヴァーの場合、一般的には大胆なアレンジがなされるケースも少なくない。ただ、今回は原曲に極めて忠実であり、昨今のライヴでの雰囲気を想起させつつ、それでいてスタジオ作品ならではの精緻な仕上がりとなっている。つまり、あえて意図的な改変を加える必要がなかったということだ。そこがまた陰陽座の特性を逆説的にも証明している。
　音楽メディアとしてのコンパクト・ディスクが、今後、どのような存在になっていくかはわからないが、ジャケット等のアートワークを含めて、陰陽座がこのフィジカルの形態にこだわってきたことも、この２つのボックス・セットからは垣間見える。紙ジャケット仕様の体裁も古き良きLP等のアナログ盤文化を今に伝える趣向かもしれない。

文●土屋京輔